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服務規程
僕は死神だ。死者が迷わずあの世に行けるよう導いている。
変わり者と思われているけど、真面目に務めているおかげか、休暇の申請はあっさり通った。
「休暇中も服務規程は破らないように」という上司に、「もちろんです」と僕は胸を張った。
この仕事は性に合っている。服務規程違反で辞めたくはない。
やってきた『こどもの日』。
母が一人で暮らす実家の前で、僕は同僚と落ち合った。
父と離婚後に事業で成功を収め、女傑と呼ばれた母も病には勝てず、とうとうお迎えの日になったのだ。
「お母さま、かなり危ない状態よ。――でも本当に大丈夫? お母さまに息子だって気づかれたら……」
死神は家族や親しい人のお迎えはできないと、服務規程で決まっている。懐かしい記憶が呼び覚まされ、現世に執着した結果、魂が迷ってしまうからだ。
「大丈夫ですよ。僕は随分変わりましたから」
滅多にないことだが、僕らは希望すれば生きている人と同じように年を重ねることができる。
「スムーズに仕事ができるなら、それでいいけど」と同僚は肩をすくめた。
母は死後の世界系の話が大大大嫌いだ。
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