1人が本棚に入れています
本棚に追加
真人はこの事態を妻のミクにも話さなかった。
夫が世界を操る超能力者もどきだと知ればミクは混乱するにちがいない。
それに、本音をいえば、真人はこの恩恵を失いたくなかった。二度と貧困に陥らないと保証されたも同然なのに、格差社会の下層に誰が潔く戻ろうとするだろうか。
ズルくなんかない。
これは契約の余禄、役得なのだ。贅沢したいわけではないし、世界を征服しようなんて思わない。宝くじを当てたいなんて考えたりもしない。神にその必要はないのだから。
目立たずに、平凡で少しだけいい暮らしを続けていきたかった。
真人は、自分の力を世間に知られないように、人と喧嘩せず、不平不満を口に出さず、ほんの時たま小さな願いをつぶやきはするが、地道に働いた。そんな生き方なので、職場では人望が集まり、仕事は順調に進み、家庭も円満だった。
報道で知るのだが、汎用AI「コスモス」は進化を続けていた。
どんな分野のどんな難問題にも解決策を提示し、顧客の満足度は高かった。
業績が悪化した企業のCEDにAIで初めて就任し、見事に立て直したことで、一躍脚光を浴び、世界中のどの汎用AIより優れていると広く知られるようになった。
更に、経済破綻した自治体や国家、軍事衝突で崩壊した内戦国家などの再構築を依頼されて実績を残し、人類の将来を託せる存在になると称賛された。
コスモスは極端や過激に走らないところが信頼できるという。極論を採らないのだ。企業や国家の再建という規模の大きい仕事ばかりでなく、今夜のおかずのレシピ、子育ての注意点など、きめ細かい話題にも長けていた。
コスモスの人格モデルは果して男性なのか女性なのか、そんなことも世間の話題になっていた。
ぼくです! 真人は内心自慢だった。
コスモスは進化しつづけた。
最初のコメントを投稿しよう!