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「パパ怒ってるの。どうして怒ってるの」
八歳の翔斗は驚いて真人を見上げた。
不用意な言葉を吐かないように自分を抑えて生きている真人が怒りを露わにするのは珍しい。
キッチンのモニターに映るニュースで国会審議の結果を見て、抑えきれずに憤りが面に出てしまった。
怒ってなんかいないよと笑おうとしたが、口の端が不機嫌そうに曲がっただけだった。
翔斗は、父の傍らでゲームをしていた自分が何かしでかしたのかと不安そうだ。真人は軽い調子で言った。
「ニュースを見ていて、思わず、腹を立てちゃった」
「どんなニュース?」
翔斗は怯えたようにモニターを振り返る。
「大事な法案が廃案にされたんだよ」
「ホウアンって?」
子供には難しい問題だが、怒ったのは翔斗のせいではないとわからせたくて言った。
「翔斗が生まれる前は、世の中にはたくさんの仕事があって、皆は働いてお金をもらってたんだよ」
「しごと?」
「電車やバスには一台ずつ人が乗って運転していたし、お店にはレジというのがあって店員が手でお金を受け取っていた。学校だって、ひとつの教室に一人ずつ先生がいて自分の声で教えてくれたんだ」
翔斗は想像できなくてキョトンとしている。
「皆そうやって働く代わりにお金をもらって生活していた。ところがAIが仕事をするようになってから、お金はAIの持ち主とか一部の人にしかいかないようになっちゃってるだろ」
子供にはやはり難しい話だ。
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