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十六秒間の出来事よりさかのぼること数十年前……
真人は地下鉄の車窓に流れる闇を見てつぶやいた。
「青山一丁目と赤坂見附の間が一番だよね、地下鉄の眺めは」
「また馬鹿言って」
隣りのミクはクスっと笑い、真人の横顔を見た。
真人は笑っていない。いつもみたいに冗談を連発するようすもない。
「真人、うれしくないの?」
「ううん……それほど……」
「どうして? たった一人の入選なんでしょ、すごいじゃない」
真人の顔色が曇る。小さく首を振った。
「あやしいよ。新手の詐欺かも。あの程度の論文が入選だって」
来るべきAI社会の姿についてあなたの意見を教えてください。
そんな論文を公募したのは「汎用AI新世紀財団」。
名前からして胡散臭い。
入選の連絡が来た直後は、
やったあ、賞金が手に入ったら貧困やブラックバイトからしばらくは脱け出せて、美味しいものが食べられるぞ、
と舞い上がってしまったが、一時の興奮が治まると、
ぼくのあの程度の論文が?
二流専門学校生のこんなぼくが?
と違和感が生じた。
コンテストを主催する財団をググッてみても詳しいことはわからなかった。
ミクは車窓の闇を見る。
「この辺りのほうが良い眺めじゃん」
笑わない真人に優しく微笑みかけた。
「行ってみればわかるわよ。晴れの授賞式で、真人は今日の主役。堂々としてればいいよ。賞金もらったら帰りは銀座でお寿司。回転してないの、ね」
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