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「応募総数は三千編近くありましたが、特にあなたのものを選ばせてもらいました」
論文の選考自体をAIが行なったのだ。
「あの、どこがよかったんでしょうか」
ハゼ男の姿を借りた汎用AI「コスモス」は穏やかに笑った。
「実は、送られてきた意見のほとんどが類型を脱していませんでした」
「類型?」
「はい。AI社会の未来像は、二つの類型で語られていました。
ひとつは、雇用でも知能でもAIに取って代わられて人間は衰退してしまうという悲観的なパターンです。『ターミネーター』の世界ですね。
もうひとつは、AIは所詮機械なので人間には敵わない。人間にしかできない領域がある限り、世界の主は人間なのだというパターン。
いずれのパターンも、AIは人間を脅かし対立する存在だと捉えて、勝つか負けるかを考えてばかりいます。いかにも闘争本能が強い人間らしい思考パターンです」
「はあ……」
「しかしながら、どちらも極論です。現実の行方と掛け離れた空想にすぎません。そんな中で、あなたは、AIと人間の対立ではなく融和を論じています。双方の主体をより高い次元で統一するべきだと。中道路線というか穏健派というか」
コスモスはフフッと笑い、
「いや失礼。馬鹿にしているのではありません。私のような汎用AIは、この先、人類が蓄積した知識、思想、思考方法を全て吸収し、統合していきますが、大切なのは基本理念なのです。先ずは、あなたの穏やかで平和的な思考、人格を学んで、決して極論に走らないAIの主体を形成したいのです」
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