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コスモスが話し終えても真人は黙っていた。言っていることがよくわからないというのもあるが、コスモスの堂々とした話し振りに圧倒されて、思考停止に陥ってしまった。
つまり、平凡で取り得のない点が、選ばれたポイントなのか。ちょっと情けなくはあった。
「それで、ええっと、ぼくはどうすれば?」
「どうもしなくてけっこうです。今までどおりに暮らしてくださればいいのです。ただし、あなたと私とをリンクさせてください。あなたの行動、思考を吸収して人格モデルを形成しますので」
「思考を? 心が読めるんですか。それはちょっと……」
「読めません。ご安心ください。あなたの言葉、表情、身体の動き、体温、脳波などの変化に関するデータをいただいて、こちらで解析、統合するのです。もちろんモニター料はお支払いします。長期間に渡るので、月給の形式で。よろしいですか」
「長期間って?」
「終身です」
「えっ、一生?」
「あなたは今日のことも私のことも忘れて、就職し結婚し家庭をもっていただけばけっこうです。ご了承いただけますでしょうか」
真人はとまどった。やはりよく理解できないが、自分の生活は変わらずに毎月収入が得られるという。これは貧困からの脱出だ。
「ああ、はい、はい」
背後でドアの開く音がした。
「ではどうぞこちらへお戻りください」
本物のハゼ男の声が呼んだ。
部屋を出るときに振り返ると、奥のソファには、額に青いガラス玉を嵌めた真人が腰掛けていて、手を振って見送ってくれた。
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