1人が本棚に入れています
本棚に追加
地下鉄の駅へ階段を下りていくと、ホームに車両が停まっている。メロディーが鳴り、発車しますとアナウンスが流れる。真人は駆け下りた。ミクの声が追う。
「間に合わないわよ、次のにしましょう」
ドアが閉まろうとする。
「おおい、待って」
真人は階段の中ほどでそう口にしたが、誰に聞こえるわけでもなく、ドアは音を立てて閉まった。
が、次の瞬間、ふたたび開いた。自分たちより先に駆け込み乗車しようとした人がいてドアが開いたのか。いや、そんなようすはない。車両はドアを開けたまま、静かに真人を待っていた。ホームの駅員が異常の原因を探して左右を見渡す。真人とミクが乗り込むと、ドアは閉まり、車両は動きだした。
銀座で地上に出て、真人はスマートフォンの検索で高級寿司店を探した。
「ここから近いのは、みさき寿司」
「電話で予約とかしてなくていいの?」
「いいよ」
「どうして?」
「店の前まで行って、ビビって、やっぱり止そうってなるかも」
案の定、その老舗の寿司屋はいかにも敷居が高そうだった。真人は、暖簾の陰に隠れるようにして、戸を少しだけ開けて店内をのぞいた。カウンターは満席だ。
「混んでる。やっぱ止めておこう」
内心ほっとしてささやくと、戸が内側からガラッと開いて、割烹着の女性が笑いかけた。
「ご予約いただいた山之上様ですね」
「え、確かに山之上ですが」
「あいにくとカウンターは混んでおりまして。個室をご用意いたしました。よろしゅうございますね」
「え、あ、はい、お、お願い、します」
真人はミクと顔を見合わせた。
この世界の何かが変わってしまったのをぼんやりと自覚した。
最初のコメントを投稿しよう!