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ここまで頑張って捨てられるとは思っていなかった。これだけ頑張ったんだ。来年からは直接雇用が約束されていると信じていた。派遣社員が派遣法改定という時の政府が決めた法律によってもうこの先愛する会社にいられなくなると知ったとき、派遣社員は直接雇用をしてもらいたいと強く願った。でも願うだけではただの受け身。一生懸命をアピールする必要がある。そのときから一生懸命を実践した。たくさんの人に名前も覚えてもらうんだ。もちろん上層部にも覚えてもらうんだと一生懸命になった。
会社の近くに引っ越しまでした私の一生懸命に落ち度はない。
落ち度のない一生懸命が捨てられるという結果を招くなんて信じられないことだった。ここで得体の知れない黒ずくめの男に「あなた、だいぶ腐ってますね」と肩に手をまわされでもしたらドラマの世界観は一変する。「あなたは間違っていない。なのにどうして捨てられなきゃいけない? 誰のせいなんだって思っているでしょ」復讐への誘い。こうしてしがない派遣社員は連続殺人を起こす決心をする。刹那的な BGMが鳴り響き。崖の上に追いつめられるまで私を直接雇用にしなかったカマキリのような常務とか毛髪の薄い狸課長とか直接の上司である女というだけの平社員を順調に始末していく。それが復讐だ。
決心したとたんいやな夢を見る。
探偵役の元同僚(女性)が拳を握りしめて叫ぶ。
「とろみさん、なんてことを。あなたそんな人じゃなかった。逆境にも持ち前の明るさで乗り越えられる人だと思ってた。みんな、そんなあなたが大好きだったのに、なんでこんなおそろしいことを」
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