side.奈帆

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私はその一部始終を何も言えずただじっと見つめていた。 動けない、離れられない。 ずっと一緒の幼馴染二人、まして男の子同士のキスなんて、どうして想像できただろう。 唇を離すと慎は悟に笑顔を向けた。 その顔は本当に嬉しそうで、愛おしそうで。 何も考えたくない。 どうしたらいいのかわからない。 頭がぐちゃぐちゃだ………。 思わず逃げ出そうと一歩後ろに下がった時、教室から悟の声が聞こえてきた。 「じゃあ俺帰るな。」 「えー。」 「今日は奈帆と二人で帰るんだろ?」 「うん、そう言われた。」 「じゃあ明日な。気をつけて帰れよ。」 慎は寂しそうに悟を見ながら仕方なさそうに頷いた。 その表情に気がついただろうに、悟は何事もなかったように自分のカバン持って歩き出す。 私はバレないように慌てて隣の誰もいない教室に隠れた。 悟が一人廊下を歩く音がする。 本当は、少し脈があるんじゃないかって思ってた。 ずっと仲良くてみんなにも付き合ってるの?って聞かれていたし。 ないない、と笑いながら期待は心の中に募っていたんだ。 そんな自惚れていた自分に嫌気がさす。 だって三人の中で何も知らない裸の王様だったのは私だったのだから。 どうしよう、慎のところに行かないと。 待たせてるんだから。 その事実はわかるのに何を言えばいいのかわからない。 あんな現場を見た後でまさか慎のことを好きだとは言えない。 だって私からの好意は慎を困らせるだけだ。 慎には好きな人がいて、しかもそれはずっと仲良くて誰よりも慎を知っている男の友達だ。 そんなの入り込む隙は1ミリもない。 幸せそうに笑う慎の幸せを壊す資格はない。 でも……このまま会ってもいつも通りに慎に笑える自信がなかった。 明日から当たり前のように慎と悟と一緒に暮らす自信なんてなかった。 いっそのこと、慎が私のことを嫌いになってくれたらいいのに。 そしたら好きとかそんな気持ち関係なく慎のこと忘れられる気がする。 こっぴどく慎に嫌われるような何かがあれば……。 と考えた瞬間、あることが思いついた。 それは悲しい嘘、つきたくなんてなかった嘘。
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