side.悟

1/3
前へ
/9ページ
次へ

side.悟

奈帆が教室から出る所を俺……悟は反対側の扉で見ていた。 立ち去る奈帆の目に浮かぶ涙を見つめながら、ため息をつく。 部屋に入ると椅子に座って苦しそうな表情を浮かべる慎がいた。 「慎、本当にこれでよかったのか?」 「悟……ありがと。協力してくれて。」 俺が隣に座ると慎は弱々しく笑った。 「いいんだよ。これで奈帆は俺のこと嫌いになっただろうから。」 「そうか?」 「そうだよ。ずっとそばにいた幼馴染が男が好きだったんだ。しかもあんな言い方したんだから。」 慎は今にも泣きそうな顔でそう呟く。 これは俺たちが奈帆についた嘘だった。 奈帆に慎のことを嫌いになってもらうために、俺と慎が付き合っている振りをして、奈帆に見せつけたんだ。 「本当にいいのかよ、今ならまだ間に合うぞ。」 「いいっていうか、奈帆は俺といても幸せになれない。だったらこれが一番なんだよ。」 「けど……」 「奈帆が悟のこと好きだったのはちょっと堪えたけど。」 苦笑いしながら呟く。 「でも、いっそのことちょうどいいのかも。これで俺もちゃんと諦められる。」 慎がピシャリとそういうから俺は口をつぐむしかない。 ……慎は昔から体が悪かった。 でもそれはただの病気ではない。 世界でも稀に見る難病であることがわかったのは、俺らが高校生になってすぐだった。 うちの父親が働く大学病院でそれがわかった時、慎の寿命は長くて25歳だろうと通告された。 知っているのは慎の家族と俺の家族だけ。 初めは奈帆にもちゃんと言おうって言ったんだけど、慎が止めた。 奈帆が知ったら心配する。 慎のことでいっぱいになって奈帆の時間を全部捨ててそばにいる。 けど奈帆の人生を邪魔する訳にはいかない。 段々と衰えていく自分の短い人生のために、奈帆を犠牲にしたくないって懇願したんだ。 だから俺達は奈帆には言わないことにした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加