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それでも高校生になって奈帆の慎への気持ちは俺にもわかるくらい強くなっていった。
そして、慎も。
大人になるにつれ美しくなっていく奈帆への恋心は止まらなくなっていった。
でも、自分には奈帆を幸せにできないから。
どんなにそばにいても苦しめてしまうだけだから。
そうして悩みに悩んだ慎が見つけ出した答えがこれだった。
奈帆がもう自分のことを忘れてしまうくらい嫌われること。
そのために俺に協力を頼んで来たのだ。
自分に告白しようとする奈帆の目の前で俺と恋人のふりをしてキスをしようって。
全く俺から見たら二人共馬鹿だ。大馬鹿だ。
慎が俺を好きなわけないのに。
奈帆が俺を好きなわけないのに。
二人ともただお互いが好きなだけ、愛しているだけだ。
お互いを思うからこそ積み重なる嘘だ。
でも………。
「なぁ、悟。やっぱり悟はおじさんと同じ大学行くの?」
「ああ、慎の近くにもいられるしな。高校卒業したら父さんの病院に入院するんだろ?」
「うん。流石にもう限界らしいから……でもいいんだよ、悟も。俺のことなんて忘れて……」
「ばーか。忘れねぇって。大体俺は慎のために大学行く訳じゃねぇよ。」
「ほんとに?」
「どっちにしろ父さんみたいな医者になるのが俺の夢だからさ。」
「かっこいいな、悟は。」
「そうかー?でも、できるなら俺はお前の病気が治る道を探すぞ。例え慎自身が諦めてもさ。俺は諦めねーから。」
「やっぱりかっこいいじゃん。」
「だから褒めてもなんも出ないっつーの。」
そう言って二人で笑い合っていると、不意に慎は目を伏せた。
「どうした?身体痛むか?」
心配になって顔を覗くと慎は泣きそうな顔をして笑った。
「俺、案外怖くないよ。」
「何が?」
「死ぬこと。だって悟はずっとそばにいてくれるもんな。」
「……当たり前だろ。」
「一人じゃないってわかるから怖くないんだろうな。」
「本当に?」
「うん。ありがとな、悟。俺の友達でいてくれて……なーんてな。」
「おい!」
「じゃあ帰ろっか。」
慎は恥ずかしかったのかそう言うとそそくさと立ち上がり、カバンを持って歩き出した。
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