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その2 Aさん
Aさんは、私の青春そのものの女性だった。
出会ったのは高校の入学式。新入生が一堂に列を作る中、私の丁度前の列にAさんは居た。
一目、いや、一耳惚れだった。背の低い、小柄な女性は比較的声のキーが高いと思っていったが、Aさんの小さな体躯から発せられる声は、ちょっとハスキーな甘ったるい低音で、その響きからはまるで、甘くてトローンとした蜂蜜の香が漂ってくるようだった。
「一目惚れした。」
私は友人にそう言った。実は高校入学当初、私の視力は落ち込んでいて、裸眼だと人の顔がよく見えていなかった。程なくしてコンタクトレンズを付けるようになって、改めてAさんを見た時には、正直、当初抱いていた外見のイメージとは違うなぁと思った。もっと大人っぽい容姿を勝手に想像していたが、失礼ながら彼女はどちらかというと子供っぽく、可愛らしい女の子だった。
もちろん、友人にも「実は目が悪くて、どんな子か分からなかった。」とか、「実は声聞いた瞬間、恋しちゃった。」なんてことを言えるはずもなく、しかし、そんなことは私にとっては些末なことで、人にとってその嗜好をくすぐる好みがそれぞれにあり、多くの人が女性の顔立ちや、体形にそ
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