その2 Aさん

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
の好みを見つけるが、私にとってのそれが声だったというだけのこと。(Aさんは、もちろん私からしたら非常に可愛らしい女の子だったが)  半年後、思い切って交際を申し込んだ。二度フラれたが、でも、どうしても欲しいものだったから、三度目の正直で恋は実った。  それからは毎日が楽しかった。今思えば、Aさんはお情けでお付き合いしてくれたのかもしれない。私は、欲しいものにひたすらに駄々をこねたようなものだったから。でも、そんなことはどうでもよかった。  もっと沢山の彼女の声を聴きたい。嬉しいときはどんな風にしゃべるのか、笑い声はどんな感じなのか、起こった声だって、泣き声だって、全部余すことなく手に入れたい。だから、夢中でデートを考えた。喜びそうなことを彼女の友人に聞いて回った。どんな食べ物が好きなのか、どんな服が好きなのか、どんなスポーツが好きなのか、好きな芸能人や歌手は?尊敬する人物は?行ってみたいところは?将来の夢は何だろう。いや、そんなことでは足りない。彼女の全部を手にできない。もっと例えば、コーヒーにはミルクを入れるのかとか、角砂糖は何個とか、そういったことまで全部。  夏は一緒に花火を見に行った
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!