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。何発も打ち上がる様々の形の花火に興奮する彼女からは、桃のような優しく甘い声がもれた。
冬はサプライズで、手編みのマフラーをプレゼントした。泣きながら受け取ってくれた彼女の「ありがとう」は、私の胸をキュッと締め付けた。
受験前には、一緒に初詣に行った。吐く息の白い、早朝の鳥居をくぐると、決意と覚悟と、ほんの少しの緊張をミキサーでミックスしたような、そんな声色が聞こえた。
メールより、電話が好きだった。だって、電話なら彼女の声が聞こえるから。目を瞑ると、その分だけ嗅覚や味覚が研ぎ澄まされるってどこかで聞いたことがある。電話なら、聴覚だけを頼るから、彼女の声を、その息遣いまで堪能することができる。それはとても幸せで、十年以上経った今だって、目を瞑れば、電話越しの彼女の声を思い出せる。だから、沢山彼女の話を聞いた。
そうして一番記憶にあるのは、二人乗りの自転車。それは、お金も、力もなかった学生の私にできた、二人だけの小さな旅。替わりばんこにペダルを漕いだ。十回に八回は私が、二回は彼女が漕いだ。背中越しに聞く彼女の話は内容なんてどんなことでも良かった。後輪に二人乗り用のステップをつけたら、彼女の声がもっと耳元で聞こえた。それは私の青春だった。
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