その3 蜂蜜の音色

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その3 蜂蜜の音色

 別れは、大学三年生の時にやってきた。今は、結婚して子供もいるそうだ。幸せになって欲しい。そう素直に思える。  そして、今でも目を瞑ると、彼女の声が鮮明に思い出せる。カセットテープだったら、何千回、何万回と繰り返し再生するうちに劣化し、やがて音を失うんだろう。でも、私の脳内では、何千回、何万回と繰り返すたびに、より鋭く研ぎ澄まされ、私の心を切りつける。人の顔を覚えられる人は、その人の顔を何度も繰り返し思い出すと、同じような気持ちになるんだろうか?  強烈な印象と、注ぎ込んだエネルギーを残して、彼女は彼女の、私は私の道を行く。目を瞑れば、はちみつみたいな甘い香りと青春が、今だって私の耳にこだましながら。
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