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「あんたが戻って行った後、村を取材したいって人たちが来たんだよ。その人たちが、みんなで吊り橋を渡った……そしたら、吊り橋が落ちたんだよ……」
そこまで言うと、穂香は下を向いた。やがて、その口から嗚咽が洩れる。
だが、僕にはかける言葉が無かった。言われてみれば、確かにそんなニュースを見た覚えがある。
もっとも、当時は父と母の離婚騒動で頭がいっぱいだった。そのニュースを見ても、考える余裕が無かったのだ。
ましてや、自分の過去にしでかしたことと関係があるなどと、誰が思うだろうか。
「それ……誰かに言ったの?」
かろうじて僕の口から出たのは、その質問だけだった。
「言えるわけない……あたしは、ずっと独りで……耐えてたんだ……なのに、あんたは今になって……」
穂香の言葉を、僕は胸が潰れそうな思いで聞いていた。彼女は、ずっと独りで耐えていたのだ。自分の犯した罪に怯え、苦しみ、さらに罪から逃れようともした。
だが、罪から逃げることは出来なかった。穂香は滝川村に残り、滅びゆく村と運命を共にすることで、自分に罰を与えようとしていたのだろう……。
そんな時に、僕と再会してしまった。
唯一、罪を打ち明けられる人間と。
この世でただ独りの、共犯者と――
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