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穂香、ということは女の子だったのか。髪は短いし、男の子のような雰囲気だ。でも近くでよく見ると、その顔立ちには女の子らしさもある。
「ぼ、僕は、た、高山和義だよ」
僕はつっかえながら答えた。もともと人見知りであり、活発な方ではない。女の子と一対一で話すこともなかった。なのに、初対面の女の子に親しげに話しかけられるとは……僕は戸惑っていた。ひょっとしたら、この時の僕は赤面していたかもしれない。
だが、穂香は僕の事情など関係ないようだ。こちらを真っ直ぐ見つめながら、なおも聞いてくる。
「カズヨシ……じゃあ、カズくんだね。カズくんは、引っ越してきたの?」
「い、いや、旅行で来たんだよ」
「ふうん、旅行なんだ」
そう言うと、穂香は下を向いた。心なしか、がっかりしているようにも見える。
だが、すぐに顔を上げた。
「一緒に遊ぼ。あっちに、おっきい野良猫がいるんだよ」
言うと同時に、穂香は僕の手を掴み引っ張っていく。その強引な態度に、僕はされるがままになっていた。
後になって分かったことだが、当時の滝川村は既に限界集落寸前の状態であった。そのため、穂香と同じ年頃の小学生は一人もいなかった。彼女はたった一人で、学校に通い授業を受けていたのである。
そんな穂香にとって、村で見かけた同年代の少年……ひょっとしたら同級生になるのかもしれない、という淡い期待を抱いたのではないだろうか。
村を出たことのない彼女にとって、同年代の友だちとは、テレビの中でしか観たことがないものだったのだ。当時の穂香にとって、僕の存在は特別なものだった……これは、単なる自惚れや独りよがりの思い込みではないはずだ。
僕にとっても、穂香の存在は特別だった。ぱっとしない風貌で引っ込み思案、友だちの少ない少年であった僕にとっては、穂香は初めて触れ合った異性の友人である。彼女の強引なペースに抗えぬまま、行動を共にしていた。
翌日から僕は、穂香と毎日遊ぶようになった。
穂香は昼ごろになると、うちに呼びに来る。すると僕たちは、一緒に滝川村を探検するのだ。野山を歩き、川で魚やザリガニを獲った。穂香はザリガニ獲りが上手く、ぼくは感心していた。
「穂香ちゃんは、本当に凄いんだね!」
僕がそう言うと、穂香は得意気に胸を張る。その姿は、たまらなく可愛かった。
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