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それは、夏休みに入ったばかりの日のことだった。
僕はバイトから帰ると、何気なくテレビをつけた。そのとたん、懐かしい映像が目に飛び込んで来た。
(滝川村……かつては日本でも有数の石炭の採掘場であり、たくさんの労働者が住んでいた。しかし今では、その面影はない)
重々しいナレーターの声から察するに、これはドキュメンタリー番組らしい。今回は滝川村を特集しているようだ。普段なら、こんな番組を観たりはしない。そもそも、テレビ自体をほとんど観なかった。
しかし、その時の僕は画面から目を離せなくなっていた。滝川村の風景は、昔とほぼ同じである。
かつて、穂香と一緒に遊んだ時と……。
僕の中で、様々な思い出が甦ってきた。幼かった自分と穂香の、二人だけの世界。野山を散策し、ザリガニを獲り、野良猫と遊び、山の上で語り合った日々。
その小さな世界が終焉を迎え、泣きながら誓った言葉。
(僕、また来るから……来年の夏休みに、また来るからね……)
だが、その誓いを守ることは出来なかった。
それから何年も経ち、いつの間にか冷めきった高校生になっていた。彼女などいるはずもないし、友だちもいない。むしろ、そういったものをせせら笑う、実に嫌な奴になっていたのである。全ては、両親の離婚が原因だった。
しかし今になって、滝川村で過ごした日々が無性に懐かしくなった。
それから、二週間後。
僕はリュックを背負い、滝川村に来ていた。あと一週間、夏休みは残っている。ならば、残った時間で昔の思い出に浸ってみるか……柄にもなく、そんなことを考えたのである。
小学生だった時に比べると、風景は変わっていた。先日観たドキュメンタリー番組の映像とは、明らかに違っている。道を囲んでいた田んぼは荒れ地になり、小動物を見かける回数も多い。
それでいながら、人間とは全く出会わない。僕は不気味なものを感じていた。この村は、もはや死にかけているのだ。死臭を漂わせながら、滅びへの道を緩慢な動きで歩む動物……その歩みを止めることなど、出来はしない。
僕は、とても悲しくなった。かつての滝川村は、紛れもなく楽園だった。ここで過ごした日々は、僕と穂香にとってかけがえのないものだったのに。
そう言えば、穂香はどうしているのだろう?
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