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僕はおぼろげな記憶を辿り、穂香の家に向かった。とはいえ、再会できる可能性に期待を持っていたわけではない。こんな死にかけた村に、彼女が残っているとは思えなかった。
少なくとも、僕の記憶の中の穂香は、物怖じしない活発な少女だ。そんな少女が、寂れた集落でおとなしくしていられるとは思えない。彼女は、きっと村を離れて都会の高校へと進学しただろう。
にもかかわらず、僕は穂香の家に行った。なぜかと問われたら、こう答える。単なるノスタルジーだ、と。
そう、僕はノスタルジックな思い出に浸りたかったのだ。多感で背伸びしたい年頃の高校生にとって、この滝川村はうってつけだった。まるで文芸作品の主人公にでもなった気分で、僕は歩いていた。厨二まる出しのカッコ悪いポエムを、心の中で呟きながら。
だが、僕は甘かった。
久しぶりに訪れる穂香の家は、記憶よりずっと小さかった。しかも古びている。庭の雑草は伸び放題で、塀は腐りかけている。引き戸のガラスは割れて小さな穴が空いており、厚紙とガムテープで応急処置がされている。壁も汚く、得体の知れない汚れが付着している。
空き家か? と僕は思った。だが、そうでないことがすぐに判明する。
「何か用ですか?」
不意に、後ろから声がした。僕は、弾かれたようにパッと振り向く。
そこには、若い女が立っていた。不健康そうな顔、痩せこけた体つき、染みの付いた服。手にはトートバッグをぶら下げているが、手首にはリストバンドを付けていた。
一瞬、目の前にいる女が誰なのか分からなかった。だが、その大きな瞳や怪訝そうな表情には、昔の面影が残っている。
「ほ、穂香……ちゃん?」
ためらいながら発した僕の言葉に、彼女は眉間に皺を寄せた。睨むような目で、こちらをじっと見つめる。
その目が丸くなった。
「……か、カズくん?」
言いながら、彼女は後ずさった。何かに怯えるかのように。その態度は、明らかにおかしかった。
だが、その時の僕は衝撃のあまり硬直していた。無論、再会に全く期待していなかった……といえば嘘になる。だが、約十年ぶりに訪れた滝川村はあまりにも変わっていた。ホラー映画の舞台になるのがふさわしい、そんな寂れた村になっていたのである。
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