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穂香は無言のまま、僕の目を見つめる。
ややあって、意を決したような表情で語り始めた。
「あんたが帰ってしばらくしてから、事故があったんだよ」
「事故?」
「そう。昔の炭鉱を取材しにきた人たちが、吊り橋から谷に落ちたんだ。四人死んだ……吊り橋のロープが切れたのが原因だよ」
穂香の口調は淡々としている。だが、その顔色はさらに青くなっていた。よく見ると、体も震えている。
「そ、それは大変だったね――」
「覚えてないの? その吊り橋を、あたしとあんたで渡ったんだよ」
声を震わせながら、穂香は言った。その目には、うっすらと涙が浮かんでいる……。
僕は必死で記憶を辿った。そういえば、二人で弁当を持って、吊り橋を渡ったかもしれない。ぐらぐらしていて、非常に危険だった。二人で、危ないと言い合ったのも――
(こんな橋、なくなった方がいいよ)
僕は、やっと思い出したのだ。
自分たちのしたことを。
・・・
あの時、僕と穂香は谷に掛けられていた吊り橋を渡った。吊り橋はぐらぐらしており不安定で、足場は木製の板である。しかも腐りかけていた。
「この橋、ちゃんとしたのと取り替えればいいのに」
僕が言うと、穂香も頷いた。
「うん、村のみんなも困ってる。早く、ちゃんとした橋を掛けて欲しいって。でも、この吊り橋が使えるうちは役所から工事の許可が出ないんだってさ」
「じゃあ、この橋がなくなれば工事できるの?」
「そうみたい」
その言葉を聞き、僕は閃いた。
「なら、この橋を壊そうよ!」
僕たちは計画を立てた。まず、吊り橋を繋いでいるロープを切る。次に、村の偉い人たちに「吊り橋が壊れてるよ!」と、無邪気なふりをして報告する……というものだ。そうすれば、新しい橋を掛けてもらえるだろうという、実に子供らしい単純な計画である。
しかし、橋のロープを切るのは大変だった。いくら古びてボロボロだとはいえ、二人の小学生に切れるはずがない。
僕と穂香は夕方までチャレンジしたが、ロープに切れ目を入れただけに終わる。その日は諦め、僕たちは家に帰った。
そして翌日には、別の遊びに夢中になっていた。
・・・
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