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「もし私が1週間後の日没まで戻らない事があれば、ヘイルズを呼べ。」
ヘイルズはライオニールの遠縁で、西の島国レイクソウルを統治する王だ。まだ幼い娘に代わり、今や妻をはじめ親兄弟の居ないこの大国の王の唯一の王位継承者である。
「……その必要が無い事を切に祈り、お待ち致します。」
王が何を言わんとしているかを察しながらも、それを完全に否定する事も出来ずにグレンは答える。彼の不安はよく分かる。『禁忌の森』に立ち入って帰った者はいないと言う話は、スタッドガルドの国内だけで無く大陸全体で有名な話だ。大陸外から来た事情を知らぬ者や、狩人に追われて森に逃げ込んだ動物が霧の中に掻き消えると言う噂もある。
「もう一つ、必要があれば迷わずこの場を去ってくれ。レイ、いざとなればお前達でグレンを止める事も頼むぞ。」
一部隊を残したのはグレンの為だ。王にとしては自身以上に守らねばならないものがある。そしてライオニールにとって、時に自身より王を第一にしてしまうグレンの事が一番気掛かりだった。同時に、グレンにとってもそれは全く同じ事なのだ。自身を損なう事を厭わない王だからこそ、グレンは絶対にライオニールを護ると誓いを立てている。
ライオニールの言葉に小隊長は敬礼して答えた。
「はっ!」
グレンもお互いの頑固さを知っている。
「……陛下、どうか御身を第一に。」
彼の言葉に籠る深い忠誠と愛情は痛い程分かる。しかし、とライオニールは視線を落とすとグレンに聞こえない声でボソリと呟く。
「それは……無理、だろうな。」
彼の腕の中で幼子は、まだ泣き声を上げ続けていた。
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