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『……忘れるな、ライオニール。……約束の地だ。』 (まだ三年前の事だが、もう随分昔の様な気がする。これは王位継承式の終わった夜の事だ。) 朦朧とした頭に突然、父の声が思い出された。あの日、新たなスタッドガルドの王となった彼は先王となった父に呼ばれた。そして彼と共に、王の間と呼ばれる今迄入る事を禁じられていた部屋へ初めて入る事を許された。そこで彼は代々スタッドガルドの王のみに伝承される言い伝えや、この国のあらゆる──特に秘密とされている類の──物事を教えられた。これらは王妃となる妻や王位継承権のある王子や王女にも知らす事は許されず、継承式のあった夜にその制約の儀式を先王と新王二人のみで行う慣例になっている。そう、父にその場で初めて知らされ、彼は父と共に儀式を行った。嘗て父も先代より王位を譲り受けた夜に、同じ様に儀式をしたのだと教えてくれた。 その父も、レイチェルの亡くなる半年前に急逝していた。父の侍医が言うには数年前から身体を病魔に蝕まれており、その為急ぎ戴冠式を行ったのだと葬儀の際に教えられた。ライオニール自身、父の不調に薄々感付いてはいた。しかし国民にとって知らせは突然であり、先王の死にタッドガルドの国民は大きな衝撃を受けた。そこへ今度は新王の王妃の死と言う知らせが入った。大国とは言え、街の人々の間に不穏な空気が漂うのは仕方の無い事であった。 そしてその大国の王自身が妻の為に他国を含めて探し求めた事も手伝って、今ではあまり重宝されなくなっていた占い師や祈祷師、果てには魔術師や魔法使いと呼ばれる者の名が話題になる事が増えるようになった。そしてこの国家に続く不幸が、人々が忘れかけていた迷信や呪術と言ったものへの畏怖を思い出させるようにもなっていた。
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