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   ライオニールはベッドから飛び起きた。いつの間に横になったのだろうか。夢を見ていた気もするが、意識の覚醒と共にそれも何処かへと消えてしまった。起き上がると、彼の視線は何かに導かれる様に机の上へと引き付けられた。そこには大きな一枚の地図が広げてある。昨夜は何の疑問も持たなかったが誰が開いたのだろう。長い間戻っていなかったとはいえ、王の部屋に無断で誰かが立ち入る事は許されていない。しかしライオニール自身がこの地図を広げた記憶も特には無かった。 それはあの戴冠の夜に父から手渡された地図だった。建国当初から受け継がれていると言われたが、紙は全く痛んでおらず、縁が破れたり、擦り減ってもいない上に色褪せてもいない不思議な地図だ。今とは違う地名や地形の微妙なズレから、相当古い地図である事は間違いないのだが。そして今、彼の視線はその地図の一点に注がれていた。 スタッドガルド最北端の森──『禁忌の森』。 その文字を見た瞬間、脳裏に幼い頃の思い出が蘇った。それは城を抜け出して行ったスタッドガルドの街の記憶だ。当時そこで彼は様々な景色を見、様々な体験をした。そんな中で幼い彼がよく耳にした大人達の話があった。 『王族しか入れない禁忌の森に、王族で無い女、魔女が住んでいる。』 そう言っては子供たちに『近付いてはいけない』『森に行ったら帰れなくなる』と恐怖心を煽る言葉で締め括り怯えさせていた。その噂話か伝承か分からないが、人々のする話は時々で内容が異なり、『魔女』が『聖女』となることもあった。大筋でその『王族で無い女』が『禁忌の森に住み』『不思議な力を使う』『不老不死の存在』と言う点だけは一致していた。そしてその、『不思議な力』の中身は、人を呪い殺す、或はあらゆる病を治す、と言うものであった。 絶対不可侵の領域であるが為に、今までの王達が広めた噂話かもしれない。何故不可侵の領域なのかと言うことを、先王はライオニールに告げる事は無かった。正しくは、告げる事が出来なかった。先王自身その理由を聞けなかった事が原因であった。
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