第1章 詩

3/9
前へ
/26ページ
次へ
でも、内面は正反対だった。私は明るくて元気が取り柄。絃ちゃんは大人しくて、穏やかな子。 元気しか取り柄のなかった私は、現在、詩と絃ちゃんの二人を演じている。 全ては、母のためだ。 母は絃ちゃんのことをとても大事に想っていたからか、目を覚ました私のことを『絃ちゃん』と呼んだのだ。 両親は決して、私と絃ちゃんを間違うことはなかったのに。 病院で目が覚め、私だけが助かったのだと聞かされた時は、私の半身が無くなったのだと絶望した。 すべてがお揃いで、いつも一緒にいて、仲が良くて、自分たちでも入れ替わった時に違和感がない程だった。 絃ちゃんの考えることもやりそうなことも分かったし、絃ちゃんも私のことは何でも分かっていた。 そんな自分の一部を失ったのだから、私の絶望は言葉では表すことなんてできない。 心も身体もズタズタに引き裂かれて、痛くて痛くて、私は事故から半年ほどの記憶が曖昧になっている。 生きる希望も楽しさも喜びも、何もかもを失い、笑顔を失い、泣くことさえ出来なくなった私に、母は言った。 『あなたが笑顔にならないと、あの子も悲しむわよ』と。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加