第1章 詩

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「はい、どうぞ」 「ありがとう。いただきます!」 手を合わせて元気よく言った私の言葉に、母が優しく微笑んでくれる。 私の前ではほとんど見せなくなったけど、まだ辛い表情をすることがあるのを知っている。 夜、お茶を取りにキッチンへ行った時に、リビングで母が泣いているのを見た。 私が学校へ行こうとして、忘れ物に気付いて戻った時に、悲しそうな顔をしていたのを見てしまった。 私では力不足なのかもしれない。 引きこもっているのだから、死んでいないと思い込んでいても、それすら悲しいはずだ。 でも、詩を消してしまうわけにもいかないし、いくら双子とはいえ、ボロが出てしまっては私の嘘が明るみに出ることになる。 そんなことを考えながら、程よく焼けたトーストにパクリとかじりついた。 サクフワの食感と、口の中に広がったバターの芳醇な味わいに、胸が苦しくなる。
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