第1章 詩

8/9
前へ
/26ページ
次へ
でも、母とは違うところがある。 瑛ちゃんは、ちゃんと絃ちゃんが死んでしまったことを理解しているのだ。 「絃ちゃんはいないよ」 「そうか」 どうして、当たり前のことを毎日聞くのだろう。 『いないよ』と答えるのは、すごくすごく悲しいのに。 どうして瑛ちゃんは、わざと私が悲しむような質問をしてくるのだろう。 そうか、と言って、真っ直ぐ前を向いて歩く瑛ちゃんを隣から見つめる。 瑛ちゃんの目は、いつも前を見ている。 絃ちゃんが死んだ時も、私の前では絶対に泣かなかった。 まだ包帯が取れない頃、瑛ちゃん家族がお見舞いに来てくれた時のことが、私は忘れられない。 瑛ちゃんは私を真っ直ぐ見て、『絃じゃない』と言ったから。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加