そんな日もある

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 さて寝ようと思ったところに電話が鳴る。もしくはメールが入る。これほど困ったことはない。今、佐々木直人を襲うシチュエーションはまさにそれだ。 「むう」  大学での仕事を終えて帰宅。さて寝るぞとベッドに入ったところで、スマホが震えた。相手は直人の大学以外の仕事先である、科学技術局の同僚、高橋怜央だった。 「緊急の案件です」 「む」  なんだと、直人は身体をベッドから起こすことになる。ひょっとして新たな事件か。 「教授。今日は一日連絡くれなかったですよね。ずっと待ってたんですよ」  が、怜央のジョーク(だと直人は思っている)が真っ先に出る。しんみりした様子も演技のはずだ。 「だって、忙しかったから」  なんだ、緊急ってそれと、直人は目を擦った。正直、眠い。ジョークならば明日の朝にしてほしい。もう一度枕に頭を載せた。  すると怜央は深々と溜め息。今日も玉砕かとこっそり呟く。この男、超がつくほどイケメンなのに直人にご執心という、奇妙な男なのだ。ちなみに女とは遊びで寝る、最低男でもある。 「用件はそれではないです。今から技術局に来てください。どうやら研究費に不透明な部分があるようで」  直人が本気で寝てしまいそうなので、怜央は用件を切り出した。 「ええっ。今日じゃないと駄目なの?だってもうすぐ一時だよ」  しかし直人はそれでも動きたくなかった。今日は大学の講義も多く、院生とのディスカッションで、気づけば八時。そこから事務作業を終えてようやく帰ってきたところだ。  特例で二十歳にして教授を務める直人とすれば、ものすごく疲れている。もう何も考えたくない。 「明日、技術局が乗り込む予定なんです。あちらももう、嗅ぎつけられたことに気づいているみたいなんですよ」  駄目と、怜央は言う。こちらとて眠い直人を出動させるのは心苦しいが、案件が直人の所属する部署に回ってきた以上は仕方ないのだ。
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