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「――解った」
渋々とはこのことだ。直人は今潜り込んだばかりのベッドから出ると、いつも着ている黒のパーカーを羽織る。そしてそのまま技術局へと出かけた。
「夜遅くにすまないな」
技術局の会議室に着くと、すでに直人以外のメンバーが集まっていた。上司である牧田敬之にそう言われ、直人は頷く。
「それで、案件は?」
会議が終わり、朝早くに問題のあった研究室に乗り込み、そして帰宅。直人はもうへとへとだった。
「眠い」
寝ようとしたところを起こされただけに、眠気は去ってくれなかった。直人はリビングのソファで寝ようかなと思う。が、そこにまた電話だ。
「むう」
嫌だ、無視したい。と、直人は一瞬思う。だって眠いもの。が、スマホに示された名前にその気持ちは吹っ飛んだ。
「何?電話なんて珍しいね」
相手は直人の研究室にちょくちょくやって来る高校生の水野竜也からだった。直人は眠気を忘れて、明るく電話に出る。竜也は直人の唯一の仕事以外の友達なのだ。
「ああ。俺もメールでいいんじゃないかと思ったんだけどな。うちのオカンが大量のパンを作ったんだ。そのお裾分けがいるかって話だから」
「へえ」
直人は手作りパンなるものを、情報として知っていても見たことがない。ちょっと興味があった。
「ついでに、お前ん家でゲーム出来ると嬉しいんだけど。今日、日曜日だろ?」
竜也の誘いに、直人はいいよと二つ返事だ。眠気とは現金なもので、仕事ならば感じて仕方ないが、遊びだと感じないものである。
すぐに竜也は母親が大量に作ったパンを持って現れた。菓子パンだけでなくカレーパンもある。これに直人は驚きだ。
「普通の家で、これが作れるの?パン屋さんじゃないよね?」
「うちのオカンの趣味なんだよ。ホームベーカリーってのを買ってから、やたらパンを作るんだ」
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