一.

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一.

 待ち合わせ場所を駅前のミスタードーナツに指定された時点で、よくない話であることはわかっていた。  季節の訪れを告げる強い風。雨が降る前の匂いと湿気を感じながら、美雨は電車を待つ。広樹にもらったコートを着てきたのは、あきらかに失敗だった。冬物で少し暑いし、別れ話を察していない馬鹿だと思われてしまうかもしれない。  「しばらくそっとしておいてほしい」というメールを最後に、突然連絡がつかなくなってから二週間。久しぶりにかかってきた電話の声で、広樹の心情は手に取るようにわかった。会って話をしたいと告げられ、電話が切れてからは眠ることもできず、長針と短針が巡るのを一晩中見つめていた。  三年前、夜景で有名なレストランで愛の告白をされた日から、彼はいつも、美雨を大切に扱ってくれた。美雨の好きなテーマパークのホテルで、左手の薬指に指輪をはめてくれたこともあった。家族連れで騒がしいドーナツチェーン店を待ち合わせ場所に指定されたことなんて、今まで一度もなかった。
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