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三.
ゴーーーール!
スピーカーを通して響きわたる長すぎる叫びに、広樹は負けじと歓声をあげた。
満員のスタジアムが揺れる。視界のあちらこちらで、無数のフラッグが揺れる。勝ち越し点を決めたのは、わずか三年でチームに出戻った小柄な10番の選手だった。試合はアディショナルタイムに入り、いつ笛が鳴ってもおかしくない時間だ。
こりゃ、禊が済んだかな。
契約が切れた年に移籍したユース育ちのエースを、当時は誰もがこぞって非難した。その理由が「優勝争いができるチームに行きたい」というものだったから、尚更だ。
広樹の応援するチームは、ホームスタジアムを山の上に持つ。グラウンドのコンディションは最高だが、リーグ開設当初の栄光はどこへやら、かろうじて降格しない順位でシーズン終了を迎えるのが常だった。
「おい広樹、今年は優勝ありえるぞ!」
興奮さめやらぬ勢いでハイタッチを求める地元のサポーター仲間に応えながら、確かにあの10番が戻って来れば無敵かもしれない、と思う。
得点力不足で悩んだ昨シーズンまでのチームはもう存在しない。これからは攻め。打ち合いのサッカーだ。
ピーー、ピーー、ピーーー……
長い笛が三回鳴り響くと、今日一番の歓声がスタジアムを震わせた。開幕戦の勝利を祝福するように、花火が空に上がる。
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