一.

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 約束の時間を三十分過ぎ心がいい加減はり裂けそうになった頃、広樹はやっと姿を現した。シャツの色がところどころ濃くなっている。外はいつのまにか、激しい雨になっていた。 「ごめん、遅くなって」  小さなタオルで水滴を拭く広樹に、美雨はにっこり笑ってみせる。いつか美雨があげたミニタオルだった。 「連絡しなかったのも、ごめん。わかってるかもしれないけど、今日は別れ話をしにきた。この気持ちはもう変わらないと思う。本当にごめん」  謝罪の言葉を述べ、頭を下げる広樹を見ると屈辱感で泣きたくなったが、涙は出ない。それどころか、広樹に微笑みかけることをやめられない。ようやく頭を上げた広樹の方が、よっぽど泣きだしそうな顔をしていた。なんなの、自分から言い出しておいて。怒りと悲しみが混ざったような思いになるけれど、自分から発される声は穏やかで優しかった。 「そうなの。何かあった?」 尋ねながら広樹の指に何もはめられていないことに気付き、美雨は自分の左手をそっとひざに置く。 「ちゃんと話を聞かせてほしい、かな」 「俺、美雨が怖い。今まで大切に、本当に大切にしてきたけど、これからどう接していいのかわからなくなっちゃったんだ」
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