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広樹は堰を切ったように話し出す。振る方が涙を浮かべ、振られている方が笑っているなんて、へんなの。そう思いながら、広樹の話に相槌を打つ。攻めも怒りもしない美雨に、広樹は理由と言い訳をひたすら並べていった。
「結婚して、このままずっと美雨と一緒になることが、不安だ。俺はもう美雨を守れない」
本当は泣いて喚いて、いやだ別れたくない、と叫びたかった。広樹がどこかでそれを待っているのも、なんとなくわかった。だけど。
「広樹がそう言うなら、仕方ないのかもね。広樹なら、素敵な人と一緒になれるよ。応援してるね」
言葉は美雨の心を置き去りにして、笑えるほど勝手に飛び出していく。
黙り込んでしまった広樹に、自ら事務的な話をしていく。貯金はちゃんと分けようね。広樹の家にある私の荷物は、捨てていいよ。広樹はどうする? 送ろうか? ……
ばいばい、と言って先に席を立ったのは、美雨の方だった。後ろで広樹が泣いていることを知っていたから、振り返ることはできなかった。これ以上ここにいたら、感情が爆発してしまう。美雨は傘をさし、軽やかな足取りで店外に出た。そして広樹の視界から消えたことを確認すると、あああ、と声を上げて涙を流した。
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