一.

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 あの頃、美雨は四人家族だった。父と母、美雨、それから美月。はす向かいに住む琴子の家族と七人でピクニックに行ったり、遊園地に行ったりした。そんな幸せな日々を、美雨は今でも時々夢に見る。 「こっちゃんは、なんでも美月のせいにするよね?」  琴子は冗談とも本気ともつかない目で美雨を見つめている。ああ、こっちゃんは美月に会いたいんだ。美雨は静かに目を伏せた。 「だって、そうじゃなきゃ寂しいじゃない。私にとっては二人とも、妹みたいなもんだったから」  美雨が小学生になった頃に突然始まった、母との二人暮らし。家も一軒家から小さなアパートに変わって、毎晩「いつ、もとのおうちに戻るの?」と聞いたことを覚えている。離婚なんて言葉は知らなかったあの頃。  父とも美月とも、あれから一度も会っていない。
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