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二.
美雨の職場は、大きなショッピングモール内にあるインテリア雑貨店だ。小さなアンティーク風のピアスから、可愛い香水瓶、大きめの家具まで、いろんなものを取り扱っている。好みの物が入荷されると、つい取り置きしてしまうのが美雨の癖だった。
開店前の準備をしていると、反対側の通りに店を構えるブランドの名札をつけた女の人が怪訝そうな表情でこちらを見ていることに気付いた。
これだけ広いショッピングモールだと、新しいスタッフが入ることも多く、店の場所がわからず迷ってしまう人も多い。親切心から声をかけると、その人は一瞬びくっと体を震わせ、どこかへ行ってしまった。
人が親切に言ってやってるのに。心の中でそう毒づきながら、こんなときでも微笑んでしまう自分を苛立たしく思う。
「大川さん! あの、レジの立ち上げお願いできますか?」
アルバイトの子に声をかけられた。はいはーい、と快く返事をし、準備を再開する。店で働く子たちに、「キレイめ系ファッションが似合うお洒落な社員さん」と憧れられているのを知っていた。美雨は望まれている通りの自分になりきって、開店の放送を待つ。
昼休みは十二時から、一人一時間ずつ取れることになっている。美雨以外に働くアルバイト二人を先に休憩に入れてあげているので、美雨が昼食をとれるのはいつも二時過ぎだ。
カップ麺の自販機があるだけのタバコ臭い休憩室に入り、角の席を確保する。大きな声で研修をしている三人の女。下品で派手な笑い方の二人組。食事をする席でファンデーションを撒き散らすおばさん。肩身が狭そうに座る男性。ランチの時間は、ちっとも気が休まらない。
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