五.

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五.

 どうして、笑顔しか見せない美雨の深い傷に気付いてあげられなかったのだろう。どうして自分よがりな考え方で、感情を隠す美雨一人を責めてしまったのだろう。  大切に大切に扱うことで、美雨を守れているつもりでいた。そんな自分が恥ずかしかった。もっと早く美雨の全てと向き合って、全てを肯定してあげられていたら。 「琴子さん、俺、美雨のところに行ってきます」 「行くって……今から?」 「美雨はひとりで、いろんなこと抱えてたのに、いろんなことから目を逸らしてた自分が情けなくて」  美雨は美月の名前を繰り返し呼び、最後に悲鳴をあげてから、配信を絶っていた。その沈黙が恐ろしかった。 「だったら私も行く。心配だわ。命に関わることをしていなければいいけれど……」  広樹がなんとなく感じていた不安を琴子が口にしたことで、悪い予感が頭から離れなくなる。あんな様子だ。何をしてもおかしくはない。琴子はネットニュースサイトから目を逸らすようにしてノートパソコンを閉じ、車のキーを手に玄関に向かった。慌てて広樹も後を追う。  美雨の家まで、車で十五分。車に乗った広樹は、平日の朝の街を、どこか隔たりがあるような気持ちで眺めた。全て、現実のことではないように感じた。ハンドルを握る琴子の切羽詰まった表情に、なおさら不安が高まる。  美雨の家は、留守だった。  居留守じゃないのは明らかだった。玄関のドアが開いたままだったから。衝動的に家を飛び出したのかもしれない。
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