1)少年

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配給が始まり、幾ばくか経ったある日のことだった。 その日はいつものとおり、配給を受け取りに城下町まで出向いていた。 王の思惑にまんまと乗っかる事は悔しいが、食料が無いのは事実。腹が減っては戦はできない。 定刻前から配給所にはかなりの列ができる。できればその長蛇の列を避けたい僕は、早足で歩いていた。 城下町に入り、曲がり角に差し掛かったとき、誰かとぶつかった。農家である僕は、言わずもがな身分は低い。そんな相手にぶつかられて許す相手など、この城下には少ないだろう。恐る恐る、すみませんと呟きながら見上げると、最悪の相手だった。巡回中の兵士だ。 王が変わってからというもの、兵士達も立場を利用し凶暴になり、盗みに暴力は日常茶飯事だった。 咄嗟に走り出す前に胸倉をつかまれ、引き倒された。下手に抵抗すれば留置所に連れて行かれ、さらに最悪な事が待っているだろう。ここはおとなしく身を任せるのが得策か。すぐさま顔面に蹴りこまれた足を何とか手でガードし、丸く蹲った。急所へのダメージをできるだけ抑えねば。その後も何度か蹴られたが、突然暴行の手が止まった。 そっと腕の隙間から見ると、無抵抗なのが面白くなかったのか、拳から棍棒に持ち替えていた。 流石にまずい。躊躇無く振り下ろされるその道具のあまりの痛さに崩れたところ、見事に顔面に食らった。激しい耳鳴りと同時に世界が歪んだ。音が遠のき、視界がぼやけていくのを感じた。 ふと暴行が止んだ。誰かが兵士のそばに立っている。誰だ? その人が歩み寄り、顔を覗き込んできた。情けない事に焦点がうまくあわないが、朦朧とする意識の中、必死で顔を認識しようとする。逆光で見づらかったが、透き通るような白い肌、思慮深さを湛えた緑の目。間違いない、本や教会で見た絵と同じ。女神に違いなかった。
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