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「ねぇ、」
彼は、男女2人に向けて、
今まさに何をしているところなのかなど気にも止めずに、声を発した。
「ここから居なくなってくれるかな」
女の方が、たくし上げられていたスカートを慌てて元に戻す。
下着は元から穿いていなかったようだ。
声の主の容姿を確認すると、思わず息を呑む。
そして、気を引こうとするような、誘おうとするような笑みを浮かべた。
上手くできてはいなかったけれど。
男の方はというと、行為を中断させられたことの不満と、見られていたことへの羞恥心から、睨むようにして振り返る。
しかし、直後に男の顔からは血の気が引き、彼とは違う意味で白い色になる。
そして、男の方が女を追い立てるようにして、2人はその場から足早に姿を消した。
…………
若い女は、おもむろに立ち上がり、
そして、その美しい男を正面に見る。
互いの視線が絡む。
すると、男が尋ねた。
「【青】区で生きようとしているの?」
僅かな間の後に、頷いて肯定の意を示す。
「そう。 それなら住まいが要るね」
そう言うなり、男は窓枠に足を掛け、流れるような動きでそれを飛び越える。
そして、女の隣、体には触れないやや距離を置いた地点に着地をした。
そして、
「君の名前は?」
見下ろす男の瞳は、何か別のものを覗き込んでいるように思えた。
女もその瞳を、見上げ、見返す。
「__『朽葉』です」
男は女の名前を、口の中で堪能するように復唱する。
そして……
酷く艶のある笑みを浮かべた。
「……あなたは?」
「僕は――『月白』」
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