調味の毒、雑味の薬

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「さて」 ここで、高音の鈴の音が高らかに鳴り、 紅碧が2人分の視線を集める。 「(ようや)く、本題に入ることができるわね。 うちを訪ねる目的があったのは、貴女なんでしょう?」 「お前、ここへは何をしに来たんだ?」 舛花も例外ではなく、朽葉と娼館という組み合わせに違和感を覚えていた。 「あら、 いいの? 貴方に、同じ問いが返されてしまうわよ?」 舛花は渋面となり、紅碧を非難がましく見る。 「いいえ、私からはお尋ねしません」 それが、どのような意味を持つのかはわからない。 けれど、朽葉の相も変わらぬ様子に、舛花は渋味を濃くする。 「こちらをお持ちしました」 朽葉は、これもまた浅葱が手掛けた物である、手巾を差し出した。 「名前となる物だと…… つまり、大切な物であると、 そう思いましたので」 手巾が紅碧の手に渡る。 「あらあら、水縹ったら……」 そして、存在を知っていたかのように、布地を開くと紙切れを摘まみ上げた。 「お使いをしていたのね。 __区長様のために」 朽葉は一瞬、吸い込んでいた息を止めた。 何故なら…… 「……紅碧」 「あら、ご免なさいね。 区長様のことになると、どうにも……感情が抑えられなくて。 ………… ねぇ? 私と舛花は、同志なのよ。 志とは、何だと思う?」 朽葉は、自分が解答するのではなく、紅碧自身が解答するのを待った。 「__区長を殺すことよ」 紅碧から感じる、これは…… "殺気" だ。 朽葉の出身区である【黄】区では、 区長を誹謗する者は、全くと言える程に居ない。 自区の区長を誇り、称えているから。 区民の票により当選したのだから、その通りだろう。 しかし…… 単に、(はばか)られるのだ。 それが悪行であると、認識しているから。 つまり、自重しているのだ。 もし、【黄】区でそれを公言しようものなら、法に則り罰が与えられる。 【青】区には、そのような法は無いようだけれど…… 罰にも似た何かが、背後に控えてはいるのではないかと思う。
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