調味の毒、雑味の薬

15/33
前へ
/189ページ
次へ
紅碧と同志であるという舛花へと、視線を移動する。 舛花の瞳も昏い。 何も映してはいない。 ……いや、映しているのは、空 だろうか。 「秘密よ」 「はい」 紅碧の普通の笑顔を前にして、朽葉は頷いた。 「折角、ここまで足を運んでくださったんだもの。 うちの店のことを、少しお教えしましょうか」 紅碧の声音が、鐘から鈴へと戻る。 紅碧が、衣装の合わせ目に手を差し入れる。 取り出されたのは、手巾だ。 「既にご存知のようだけれど、 うちの店で働く子達は皆、自分の名前の色の手巾を持っているの。 衣装や髪飾りや化粧、 目に入り易いところにも、色を使っている子は居るわ。 ただ、手巾は自ら晒さなければならない。 それがまた、粋でしょう?」 そして、見世物を披露しようとするかのように、手巾を大きく広げる。 「貴女はこれを、大切な物だと仰ったわ。 その通りよ。 自分の色、自分の名前を、 うちの店では……私は、 とても、大切なものだと考えている。 そして、これが私。 紅碧色よ」 それは、水縹色と同系である…… 「青色ですね」 とはいえ、異なる青色。 「唯一、色を決めるとするのなら、 それは、青 でしょうね。 紅碧は、 (あか)みを帯びた(あお)色、という意味よ。 言で、表されている(あか)(みどり)ではなく、表されていない青。 どの色でもあり、どの色でもない。 これは…… 特別な色。 愛しい色。 愛しい人から、付けられた名前」 紅碧は、妖しく形を変えた唇に、自分のものである手巾を当てた。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加