調味の毒、雑味の薬

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● 「紅碧」 ………… 名前を呼んだのは、 舛花でも、朽葉でもない。 肩に手が乗っている。 紅碧は、全身を強張らせた。 「あらあら…… 居たのね――貴方」 紅碧の声は、どの種の鈴の音にも似つかなかった。 「私が来ることも、居ることも、 貴女はお分かりでしたよね」 質問ではなく、断定。 その通りだった。 「それと…… 先程、貴女は「秘密」と言っていましたけれど、 "本人" の耳に入ってしまったら、 何もかも、意味の無いものになってしまうのではないですか?」 「私はそうは思わないわ。 殺したい人間に、殺したいと言う。 殺すんですもの。 意味なんて、(はな)から有りはしないわ」 紅碧は、美しさが損なわれるのも構わず、 毒蛇が牙を剥こうとするかのように、 僅かに上唇を捲り上げた。 「貴女は、私のことになると、どうも…… 筋が通らない、理に適わない物言いをするようになる。 つまり、貴女の価値が損なわれてしまう。 いや、こちらが本来の貴女なのでしょうか。 それもまた、粋ですね」 「殺してやる」 紅碧は、本人へと殺意を言い表す。 これに対し…… 【青】区の区長である男は、 慈愛に満ちた笑顔で応えた。 区長が、紅碧の首筋に鼻を寄せる。 「うん。 僕が頼んだ通り、まだ湯浴みはしていませんね」 「あんたの悪食には吐き気がするわ。 そんなに舛花のことが好き?」 「好きですよ。 僕に抱かれた君を自分が抱く。 自分が抱いた君を僕に抱かれる。 後者の方が、より舛花は嫌がる。 それを想いながら、今日も貴女を抱きに来るくらいには。 あぁ、恋ではありませんよ。 むしろ、愛 ですね」 「余計、(たち)が悪いわね」
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