調味の毒、雑味の薬

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人は…… 処世や保身、恋慕や性欲、ありとあらゆる物事のため、自分の好感度を上げようとする。 媚を売る。 だから、意図する。 しかし…… 朽葉は、何も意図していないのではないか、 そう感じる。 本心、単なる事実。 "安心" など、普段であれば憤りを覚える言葉だというのに…… 朽葉に対しては、怒りが沸き上がらない。 とはいえ、 素直な言葉を素直に受け取り、絆される訳にはいかない。 舛花は、絆されはしない。 けれど…… 意図せず、 僅かに、確かに、 舛花は、朽葉へと気を許した。 沈黙では無く、会話をしようとしていた。 「【青】区へは、空を見たいがために来たと言ったよな。 実際に見て、どう思った?」 「美しいです」 あっさりとした、ありきたりで、つまらない答え。 しかし、この一言に、思いの全てが込められていた。 朽葉は惚れるように空を見詰め、 舛花は睨むように空へと一瞥をくれた。 「お前が聞いた通りか。 …… ――誰に聞いた?」 答えるだろうか。 答えなかったとしても構わない。 どうでもいい。 または……答えさせれば良い。 これまでも、そうしてきたのだから。 「【黄】区に在った、或る喫茶店で出会った方です」 「へぇ…… そいつは、【黄】区、それに【青】区にも居た。 【黄】区では暮らしているのか? 【青】区へは訪ねたのか?」 「仰いませんでしたし、尋ねませんでした」
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