調味の毒、雑味の薬

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――― ―― ― 【青】区の、朽葉の新たな住居、 その扉の前に、2人は並び立つ。 「ここは……」 「あなたのお部屋ですか?」 「……その1つだ」 舛花には、複数の住居が在る。 生活をするというより、寝る、ただそれだけのための場所だ。 1日の殆どを、屋外で過ごす。 自警という名の下、思うままに気のままに足を進めている。 自警団用の、寝泊まりができる駐屯所のような建物は在る。 廃墟となった不要な場所だ。 しかし、舛花は自分専用の居場所を作っていた。 「あなたが出て行けと仰るのなら、出て行きます」 「その必要は無い。 殆ど使わない部屋だ」 「では、そのまま使わせていただきます」 「勝手にしろ」 「……入りますか?」 舛花の眉間に、深い皺が刻まれる。 部屋の主が部屋の中に他人を招くのには、理由がある。 【黄】区では、礼儀。 茶や珈琲を入れ、客人に安息を与える。 【青】区では、礼儀、又は……欲求。 後者が大半を占める。 客人に与えるのは、自分自身だ。 過去は【黄】区であろうと、 現在は【青】区。 朽葉には、その自覚が有るのだろうか。 「あなたの物が有るのでは?」 朽葉の一声に皺は浅くはなるが、皺は残ったままだ。 「手元に無くて困る物は無い」 「ですが、教材など……」 「今! 手元に無くて困る物は無い」 舛花は過去、学を得られる環境で生きてはいなかった。 体力は必要だけれど、知力も重要であることはわかっていた。 だから…… ……それらの本の存在を、失念していた。 「私も読ませていただいても、宜しいでしょうか?」 「……っ、勝手にしろよ……」 刻まれていた皺は、完全に消えた。
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