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"あおい"
すべてが、あおい色をしている。
現実であるこの世界で、
意識のある自分を取り巻くもの、全て。
あおい色をしている。
そう、此処は、
【青】色の世界__
○
若い女は、仰ぎ見ていた青の原因から、
視線を、
自身に最も見合った位置に下ろす。
一変して、視界が人で溢れる。
通り抜けていた視線は、幾つもの障害により、阻まれる。
新しさも華やかさも、多分にあるとは言えないけれど、
明るい色が窺える。
ここは、小さな売店が並ぶ通り。
人だかりからは一歩引いた場所で、その風景を見る。
生活をするための食糧と物資を、
売る人と買う人。
日々を生きるそんな人々の姿は、
何処に行こうと、大して変わりはないように思う。
けれど……
確かに、賑いに伴って相応の活気があるというのに、
何故だろう。
此処は、しずか だと思う。
少なくとも、自分が知るものとは異なる雰囲気。
形容することが難しい。
…………
この土地の、そんな民衆の日常を、茫然と視界に収めていると……
1人の中年女性が、こちらに視線を返していることに気付く。
その他の民と同じような身形の、普通の女性。
表情は無く、視線だけが真っ直ぐに向けられている。
その人物の形だけ、時間が止まり、画か何かになったかのようだ。
自ずとその女性に焦点が絞られようとした、
その時、
目の前に、薄汚い格好をした小さな男の子が立つ。
幼子故のあどけない顔に、こちらも表情は無い。
無言のまま、その大きな瞳で、若い女を見上げる。
物乞いだろうか。
とはいえ、渡せる物も、
それ以前に、その気も無い。
こちらも、無言で見下ろす。
ただ、それだけで応える。
すると、子供は一瞬、体を震わせる。
そして、人混みの中へと走って行ってしまった。
正面から、小さな人の形が消えた後、
視線を元あった方向へと戻す。
先程の女性は、笑顔で出店の売人と話をしながら、商品を選んでいた。
若い女は、身を翻すと、その場を立ち去った。
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