5人が本棚に入れています
本棚に追加
___
突然、人の気配がした。
落ち着き無く引き摺るような足音と、荒い息遣い。
そして、その直後に、
互いの体に手を回す男女が現れる。
とても近い場所……けれど、木板が死角となり、2人はもう1人の存在に気付かない。
先に居た女の方も、身動きせず、声を上げず、
陰から2人の姿を窺う。
男女は、唇を重ね貪り合う。
男は、女を壁に押さえると、その片脚を持ち上げ、自身の腰を打ち付け始めた。
互いの呼吸に、抑え切れない嬌声が交じる。
重なる木の隙間から丁度、女の方の顔が見えた。
愉悦と、快楽と……
けれど、それ以前にその表情が表すもの、それは__
…………
潜む若い女は、そっと目を伏せる。
そして、次にはそれを、上へと向けた。
この目に映るのは、聳える石造の人工物に遮られていない、
青い空。
目を見張る。
随分と狭まってしまった、青の範囲。
けれど、1人の人間には十分。
そして……
大通りで仰ぎ見ていた広大な空とは、また違う感覚。
青い色に、抑圧されているようだ。
空が近くに感じられる。
しかし、実際は遠過ぎる。
決してこの手は届きはしない。
決してこの手で触れられはしない。
いや、触れているのだろう。
けれど、触れていると感じられない……
世界そのものが、青い色をしているのだから。
そう……
【青】区を、例えるならば……――
「海に、沈んでいる」
最初のコメントを投稿しよう!