【青】を沈思する

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___ 突然、人の気配がした。 落ち着き無く引き摺るような足音と、荒い息遣い。 そして、その直後に、 互いの体に手を回す男女が現れる。 とても近い場所……けれど、木板が死角となり、2人はもう1人の存在に気付かない。 先に居た女の方も、身動きせず、声を上げず、 陰から2人の姿を窺う。 男女は、唇を重ね貪り合う。 男は、女を壁に押さえると、その片脚を持ち上げ、自身の腰を打ち付け始めた。 互いの呼吸に、抑え切れない嬌声が交じる。 重なる木の隙間から丁度、女の方の顔が見えた。 愉悦と、快楽と…… けれど、それ以前にその表情が表すもの、それは__ ………… 潜む若い女は、そっと目を伏せる。 そして、次にはそれを、上へと向けた。 この目に映るのは、(そび)える石造の人工物に遮られていない、 青い空。 目を見張る。 随分と狭まってしまった、青の範囲。 けれど、1人の人間には十分。 そして…… 大通りで仰ぎ見ていた広大な空とは、また違う感覚。 青い色に、抑圧されているようだ。 空が近くに感じられる。 しかし、実際は遠過ぎる。 決してこの手は届きはしない。 決してこの手で触れられはしない。 いや、触れているのだろう。 けれど、触れていると感じられない…… 世界そのものが、青い色をしているのだから。 そう…… 【青】区を、例えるならば……―― 「海に、沈んでいる」
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