口内を揺蕩う 憩

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● 朽葉は、果物屋の後方に伸びる路地を前進していた。 死者である男を見下ろした時から、 朽葉は、変わらぬ様子で変わらぬ生活をしていたように見えたが…… それでも、その身を晒すことを控えて行動をしていた。 そのため、大通りへと訪れることはあっても、露草の工房から最短の路を通っていた。 今、工房への帰路に就いている。 しかし今回は、毎回と同じ路では無かった。 何故なら、生者である男を見上げたからだ。 舛花の許しを得たから。 ……いや、区長の。 或いは、月白の、だろうか。 ____ 朽葉は、到着地を工房としながら、区内を散策していた。 ここは、商店や家屋の裏側、 活気の陰。 静か、閑かだ。 しかし、例の路地とは、様相は異なる。 明らかな差異、それは…… やはり、"青" だろうか。 空による青の影響は、比べてしまうと微々たるもの。 あの一帯が、特別なのだ。 土の地面を踏む。 体が僅かに沈み込むような感覚。 石の地面よりも、 地に足が付いている、体がここに在ると、 実感することができる。 人の姿は無い。 けれど、人を近くに感じる。 建造物の中に人が居ることは確実であり、 路上に人が居ないことは偶然なのだろう。 集合住宅の屋外壁面に貼り付いている階段や、飲食店の裏口の傍らに置かれている ごみ箱には、生活感のある赤味がかった錆が付き、 各々の建物に備え付けられている換気扇からは、各々の建物内の料理から漂う匂いが吹き出され、空気中で再び調理されている。 風に飛ばされて、今日の朝刊の一面が、目の前を横切って行った。 朽葉は、またしても、自分の感覚に任せて足を進める。 暫く歩き、そして…… 朽葉は、或る喫茶店に辿り着いた。
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