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店主の男性は、白と黒の色の皺の、無い制服が良く似合っていた。
そこに、非常に薄い青色の蝶ネクタイが付いている。
寒色であれ白に近いその色は、清潔感や几帳面さが感じられた。
「いらっしゃいませ」
男性の声は、葉擦れ音を想わせる、少し掠れたものだった。
革で覆われた、小さなメニュー表を手渡される。
滑らかな手触り、自分の体温で徐々に温もりを帯びていく。
それを開くと、普通に白い紙の上に黒い文字が乗っていた。
メニューの数は少ない。
文字に目を走らせ、そして……
朽葉は、ある文字列の上で目を止めた。
それは、最上行に記されていた訳でも、
文字が強調、または装飾されていた訳でも無い。
けれど、朽葉はその名称を読み上げた。
…………
店主の切れ長の目、その奥から僅かに覗く黒い眼球が、微かに揺れた。
「畏まりました」
注文を承った店主は、会釈をする。
それから……
「召し上がったことが、おありなのですか?」
その質問を受けた朽葉は、
「えぇ」
これだけの返事を……
肯定をした。
____
暫くすると、眼下に暗色のカップが置かれた。
そこには、液体が注がれている。
朽葉が注文したものは、茶だ。
とある茶葉が原料で、
葉のうち、新芽のみが使われている。
そして、それを乾燥させるのではなく、腐敗させる。
それに伴う臭いは無い。
匂い自体が無い。
だから、そうとは思わない。
飲物となった現在は、
摘まれる時の鮮やかな緑系色が失われ、
透明感はありながらも、全ての色を呑み込もうとするような黒に近い色をしている。
茶の熱が、カップを介して指先に伝わる。
熱は白い靄となり、顔を撫でる。
そのまま上昇し続け、空気中へと霧散する。
…………
朽葉は、暫くカップの中を覗き込んでいた。
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