調味の毒、雑味の薬

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朽葉は、露草の工房へと戻る。 寄り道を、喫茶店で休憩をしたとはいえ、 まだ眠りに就いている住民は少なくはない時間だ。 少しばかり寒いと感じる朝方の空気の中、(うずくま)るようにして建つ、あたたかみを感じる木造の工房。 朽葉は、手に馴染んだ把手を引いた。 すると、人が居た。 工房の主では無い……客人だ。 朽葉は足早に歩み寄ると、2人に声を掛けた。 「何をお探しですか?」 ………… 朽葉と向かい合ったのは、巨体の男だった。 背丈は2メートルを超す。 肩幅は広く、骨格が逞しいことがわかる。 男のためだけに仕立てられた衣服は、余裕のあるつくりとなってはいるが、 男の太い骨が、良質で大量の筋肉で覆われていることは、布地の上からでも一目瞭然だ。 ただ…… 表情の無い顔。 硬化したような透明感の無い肌。 濃く、澱んでいるかのようでもある、青色の衣服。 それらにより、石といった固く冷たい材質のもので無骨に造られた、人形を想わせた。 しかし、微かに体温が伝わる。 それが、思い違いであることを認知させる。 朽葉は、一般の成人男性の倍程の質量の肉体を前に…… 動じること無く、男の目を覗き込んだ。 「お手伝いしましょうか?」 そして、この工房の商売人として、再度 問い掛ける。 直後、朽葉の視線が遮られる。 朽葉の眼前に、男が手の平を突き出したからだ。 「私の手は不要、ということでしょうか?」 無言の行為をそう解した朽葉は、男へと確認をする。 僅かな間の後、男が頷いた。 まばたき も伴い、肯定であると容易に判断することができた。 「わかりました」 朽葉も同様の反応をする。 「もし必要となりましたら、声を掛けてください」 朽葉は会釈をする。 そして、直ちに方向転換をして、会計作業を行う席に付いた。
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