調味の毒、雑味の薬

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そして、その場から…… 男の体に妨げられ、全容を窺うことができなかった、もう1人の客人が見えた。 それは、男との関係性を疑問に思わずにはいられない、そんな外見の女だった。 女も、人形を想わせた。 ただし、こちらの場合は、 しなやかな肢体、やわらかな肌、 人を模して精巧につくられた人形。 女も長身だ。 長い腕、長い脚、長い首を有する体は、 女性として、というよりも、人として魅力がある。 しかし、痩身でもあり、弱く危うい。 それに、女の全身を視界に入れ第一に思うことは、美しいということよりも……不安定だということだろうか。 女の体の頂上に乗っていたのは、あどけなさを感じさせる顔だった。 顔だけを見ると、 成人となって間もない、又は その年齢に達していないのではないかと思う。 そして、この男女が不釣り合いであることには、もう1つ大きな理由がある。 女は、衣服というよりも、衣装と言える物を着ていた。 朽葉の出身区である【黄】区で時々見掛けることがあった、着物に似ている。 違いは、こちらの方が、機能的な仕様であり、着脱も容易であろうということ。 何より、自然な華やかさであるということ。 装飾と言える物は、刺繍のみ。 施されているのは控え目な画だ。 この衣装は、 これを身に纏う人に、清らかな華を添える役目を持つものであることがわかる。 色は、浅葱が勤める染物屋で生み出されたものではないだろうか。 男とは対称的な、淡く儚い青色。 その色は、女の白い肌を際立たせているが、 肌の冷たさをも際立たせ、一層 人形たらしめているようでもあった。 けれど……白と青以外の色、 唇に塗られている強烈な赤色が、 全てを混沌とさせ、全てを調和させていた。 詰まるところ、美しい人物だ。 ………… 露草の作品へと顔を寄せているのは、女のみ。 男は女の背後に付き、女の動きに合わせて荷車を押している。 各々の役割を察する。
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