調味の毒、雑味の薬

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話に一区切りが付いたことを察した朽葉は、"それ" を見せた。 「女性の落とし物です」 "それ" とは、女が品物を物色している間、手に持ち続けていた、手巾だった。 布のみではなかった。 折り畳まれた布の間には、紙が挟まっており……そこには、購入しようとしていた物やその特徴等が、拙い字で書かれていた。 女が、この1枚の紙に従って動いていたことを知った。 買物は終えた、だからこの紙切れの役目は果たされてはいるが…… 朽葉は、浅葱に手巾を開いて見せることはしなかった。 しかし、浅葱には不要だったようだ。 頭を垂れて手巾を見下ろすと、小さく声を上げる。 「この色…… これは、『水縹(みなはだ)』の物だな」 「水縹色、ですね」 「そう、この色も知ってるんだね。 これも、うちの店で染めた物だよ。 というより、俺が…俺"も"染めたんだ」 朽葉も、再度 目を凝らして、その色を見る。 「水縹色は、薄く暗い青色ですが…… 絶妙な鮮やかさと明るさがありますね」 浅葱は、何かを待ち望むように、視線を上げる。 「美しいです」 朽葉の視線も上がり、それから逃れるように浅葱は視線を逸らす。 「どうも」 緩んだ口元は誤魔化せなかった。 「水縹が働く店では、自分の名前の色で染めた手巾を持つことになってるんだ」 「何故です?」 「自己紹介、というか……」 語尾を濁らせ、続く言葉を言い澱む。 しかし、朽葉の真っ直ぐな視線に、またしても負かされる。
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