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「私、それと舛花に、
貴女の名前を教えて頂けるかしら?」
朽葉は、舛花へと名乗っていないことに気付く。
機会はあった。
しかし、互いの状況と、舛花の心境が思わしくなかった。
「『朽葉』です」
「枯れて落ちた葉のような色……そう、
朽葉さん」
名前を知る前と、名前を知った後、
女は、異なる感覚を以て、朽葉をみていたように感じた。
「私は、『紅碧』。
この店の娼婦であり、この店の主でもある」
「あなたが、このお店で最も、価値が大きい方ですね?」
紅碧の目が僅かに瞠られ、舛花の目が僅かに細められた。
「そうよ」
紅碧が自認する。
「いえ……"価値"、はわからないけれど、
私は店で、最も高価な娼婦。
美しいことは、値を上げるのよ。
それは、外見だけでは無いわ」
紅碧の外見は美しい……けれど、癖がある。
爬虫類を想わせる相貌や肢体。
成人女性の平均程度の身長。
女体であることを強く意識させる肉の付き方をしていない胴体。
……しかし、
体の内から、底または芯から、
湧き上がり、外へと溢れ出る、美しさ。
「そのようですね」
紅碧の出で立ちは、紅碧自身の言葉を肯定するものとして相応しい。
ここで舛花が、2人の女の間に入った。
「お前、ひとりか?」
その質問を受けた朽葉は、もうひとりである筈の人物が、舛花の視界に入っていない……
この場を去ったか、付近に身を潜めているのだと察する。
「今は、ひとりです」
その返答に対し、案の定、舛花は眉をひそめる。
そして、鋭い視線が朽葉の顔を越え、その先を貫いた。
「それで隠れているつもりなのか?
浅葱」
朽葉は、肩越しに振り向く。
小屋の陰に隠れていたらしい浅葱が、舛花に呼び付けられ、朽葉の背後で足を止めた。
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