5人が本棚に入れています
本棚に追加
「同じ物を作ります。
いや、もっと良い物を作ります。
だから__」
「それは、いけないわ」
紅碧の返答は、打ち水のようだった。
「この色は、彼女に合っているの。
私にでは無いわ。
そんな物を贈られて、私が喜ぶと思って?」
……返答が無い。
朽葉が再度 振り向くと、浅葱の顔からは生気が失われようとしていた。
「でも、そうね」
朽葉の傍らで、娼館の衣装が舞う。
「これは、いただくわ」
紅碧が、浅葱の手から紙袋を受け取った。
「いいのか?」
早々と隣に戻った紅碧に、舛花が耳打ちをする。
「これは、私のために作られた物よ。
他の人の手に渡るのは、あまり いい気がしないわ。
それに……
彼も、彼女の前で、これ以上 恥をかきたくないでしょうから」
後半については、浅葱の耳に届くことはなく……
浅葱の顔に、生気が戻る。
溢れんばかりのそれに、瞳が潤っていた。
「ありがとうございます!」
肺に溜め込んでいた空気を全て吐き出してそう言うと、喘ぐような呼吸を繰り返した。
ここで、思い出したかのように舛花の存在に慄くと、舛花の視界から逃れるように……
身を翻して駆け出した。
どうやら、浅葱は帰路に就いたようだ。
…………
朽葉はひとり、仏頂面と妖面に向き合う。
やはり、怯むことはない。
「お店を利用するのに、
若しくは、あなたを指名するのに、
特別な条件があるのですか?」
会話には参加せずとも、会話を静聴していたことを示す問い。
これに答えたのは、舛花だ。
「店にとって害の有る人間、
それと、
店の女に本気で惚れた人間は、店には入らせない」
「成程」
最初のコメントを投稿しよう!